メメント・モリ、あるいはピアノにかんするエトセトラ

私が人生で出会ったもの・考えたこと

読書

吉田秀和さんの『フルトヴェングラー』(2)

本の中ごろに"フルトヴェングラーのケース"という表題の、示唆に富んだ話がある。 第2次世界大戦前夜、ヨーロッパでファシズムが台頭したとき、楽譜に書かれた内容を忠実に再現することを信条としたトスカニーニは自身の演奏芸術を祖国イタリアからアメリカ…

吉田秀和さんの『フルトヴェングラー』(1)

心が和んだエピソード。 最初の章に出てくる話で、作曲家の別宮貞雄さんと一緒にフルトヴェングラーの振る『運命』を聴きに行った吉田さんは、会場で作家の大岡昇平さんとばったり会う。 演奏後に3人で食事をとりながら音楽の事をしゃべるのだが、吉田さんと…

クラシック名曲ガイド5(音楽之友社)

内容のうち1/6くらいがバロック鍵盤作品の紹介に割かれていて、かの市川信一郎さんが執筆されている。 今回読み直して勉強になったことを纏めておく。 ・カベソンの作品集は、やはり1578年出版の遺作集が傑作で、中でもティエントとディファレンシアスが出色…

ふたたび「風の谷のナウシカ」について

漫画版「風の谷のナウシカ」は魅力的な作品で、その放出する磁力に、私は定期的に引き付けられている。最近また考え直す機会があって、今度は何か水脈のようなものにぶつかったので、生温かいうちに書いておきたい。 発端は、初めて「教育勅語」を読んでみた…

音楽の手帖~ピアノとピアニスト(青土社)

"もうひとつのピアノ"の領家さんがblogで取り上げられていたこの本を読んでみた。1980年の初版なので大昔に書かれたものなのだが、一読して感じるのは、この時代は音楽評論が生きていたという事である。本書では音楽評論家と呼ばれる方々がピアニストをまな…

鈴木智博さんのライナーノーツ

「サバテール」という名前と、いったいどこで巡り合ったのか気になって昔の書籍を色々と見返しているうちに、ひょっとすると新星堂「アルフレッド・コルトーの遺産」シリーズの解説書ではないかと思い至った。確か何巻かの解説に、購入当時ほとんど知らなか…

いい音ってなんだろう(村上輝久)

実はこの本に先立って、川崎市で行われた講演録+インタビューと思しき本を読んだ。内容的には結構被るところもあるのだが、おおいに楽しみながら読むことができた。 個人的に興味深かったのは、1967年のマントン音楽祭の調律を一手に引き受けてやっている様…

シャンドール・ピアノ教本(シャンドール)(1)

いつか読みたいと思っていたのだが、ようやく図書館で借りてきて読むことができた。 読んで一番素晴らしかったことは、長年の疑問が何となく腑に落ちたことだ。 その疑問とは、白鍵をドレミファソと弾いた時の手首の使用に関してである。 ネット上でピアノ奏…

音楽家の名言-あなたの演奏を変える127のメッセージ(檜山乃武)

よくある名言集で、127もの言葉があれば読み手によって心に響く言葉はそれぞれだと思うが、私は、大好きなクラウディオ・アラウのこの言葉に心打たれた。 「どんなに小さな才能であっても、誠実な気持ちがあれば、その才能には音楽的に伝ええるものがたとえ…

ロシア・ピアニズムの系譜(佐藤泰一)

懐かしい!大学の時に借りて読んだこの本と、図書館で再開した(1992年の初版となっており、今読むといささか古さを感じさせる)。 著者の佐藤泰一さんは、惜しくも2009年に亡くなられたが、アマチュアのピアノ愛好家(本職は技術者)で、ショパン・オタク、…

わが人生(チッコリーニ)

アルド・チッコリーニは必ずしも全面的に好きなピアニストという訳ではないのだが、2000年を過ぎたころからの録音に聴かれる芸格の深化を心から敬っている。 この自伝は、数年前に図書館でパラパラと読んでいたところ、この言葉が目に飛び込んできて、即座に…

ピアニストが見たピアニスト(青柳いづみこ)

ネットで合理的奏法を調べていて、思わず膝を打つ言葉に出くわした。 『鍵盤を底までしっかり弾くと、指が疲れる』 正に、その通り! ハンマーの動作ポイントを超えて底までしっかり弾くと、底からの反作用の力を指がもろに受けて、疲れるのである。 最近よ…

倍音(中村明一)

(1) 鍵盤をしっかり底まで打鍵することによって発生する下部雑音に関することを、これまでのいくつかの話題で言及したのだが、では私は下部雑音否定派かというと、決してそうではない。下部雑音の含まれた打鍵を聴くと、私は強靭な「意志の力」のようなもの…

11ぴきのねこ(馬場のぼる)

少し前の休日、夜寝る前の息子に、今晩はどの絵本を読んでほしいか尋ねたときに持ってきたのが、この絵本だった。私はこのとき初めてこの作品を読んだのだが、大変な衝撃を受けた。まるで作者の馬場のぼるさんが、読み聞かせしている親に向けて「我々日本人…

ピアノを弾く手(酒井直隆)

内容の約半分が近代奏法への発展について書かれており、私はこの本で初めてトバイアス・マティ(イギリスのAPRレーベルから往年の名ピアニストの録音がマティ門下シリーズとして復刻されたのが記憶に新しい)の教えに触れることができた。 一番感動的であっ…

翼のはえた指_評伝 安川加寿子(青柳いづみこ)

読み手によって得られるものが異なる伝記だと思う。 私にとって一番心に残ったのは、完成された技巧を持った安川さんが、その速すぎる晩年に、リウマチによって演奏が出来なくなってしまうという、辛い残酷な事態であった。 ほとんどのピアノ弾きは、人生の…

ピアニストガイド(吉澤ヴィルヘルム)

本棚の奥にしまってあったのを、久しぶりに取り出してきてパラパラと読む。この本の最大の問題点は、著者主観を前面に出した人選ではなくて百科事典的に(CDで聴ける)ピアニストを網羅しているスタイルにもかかわらず、かなり目立つ位置に「おすすめ度」と…

ソビエトの名ピアニスト(ゲンナジー・ツイピン)

原著が1982年のため若干古さを感じさせる部分があるのだが、素晴らしかった。 最も心に残ったのはリヒテルについて述べられた箇所で、曰く❝芸術家が理性と感情を統合する時、通常なら冷静で均衡のとれた思考と熱烈な感情が統合されるところを、リヒテルの場…

名ピアニストたちとの出会い(山崎孝)

実店舗の本屋に行く機会がほとんどなくて、このような本が出版されているのを今まで知らなかった。 まだ第1章を読み終えたばかりなのだが、この本で目下一番素晴らしいと思ったのは、バックハウスの項で、奏者がしばしば聴かせる19世紀風の「様式化された非…

息子のクレヨンの絵本を読みながら…

(1) 息子の持っている12色入りのクレヨンを”リアル_クレヨン_セット”と名前を付けたとする。 (2) 12色の中から、黄色、マゼンダ、シアンを抜いた9色を、”シュワルツ_クレヨン_セット”と名前をつけたらどうだろう? (3) ”シュワルツ_クレヨン_セット”の任意の…

キリスト教と世界宗教(シュヴァイツァー)(2)

(2) 諸宗教と比較を行ううえで相違が現れる、3つの本質的な点 ①楽観主義的か、悲観主義的か 楽観主義的考察様式は、外的世界を支配する諸力の源は完全なる良き原力であり、一切の物事を発展・完成へと導くと確信している。 悲観主義的考察様式は、外的世界を…

檜山さんの"3Dでニョロニョロしたい"を読んで

仕事場で、最近は比較的勉強時間がとれ、フーリエ変換の改良のためという大義名分のもと双対性のことを考えている。 日ごろ参照させていただいている檜山さんのページの3Dでニョロニョロしたいの指摘:「圏論での自然変換がベクトル空間の双対性の議論での線…

葉っぱのフレディ(おまけ)

(1) 原作者が実際とは反する状況を創作したと思う箇所が1か所あって、それは、"I won't die!" said Freddie with determination.という場面だ。 体が枯れてきたフレディは、自身の死の事実を前にしてこんなに力強く言い放つことはなく、「ああ、そうなのか……

キリスト教と世界宗教(シュヴァイツァー)(1)

我々の時代は、シュヴァイツァーが遺した英知を十分回収しきれずにいると思う。 子供のころ、私にとってシュヴァイツァーはアフリカで病気と闘った偉大な医師だった。やがて、その大著『バッハ』の鍵盤音楽に関するところだけを拾い読みし、偉大なバッハ者で…

葉っぱのフレディ(3)

(2) もう一ヶ所の象徴的な場面は、地面に落ちていくフレディが自分が生まれ育った木を見るシーン As he fell, he saw the whole tree for the fist time. How strong and firm it was! He was sure that it would live for a long time and he knew that he …

葉っぱのフレディ(2)

図書館から借りてきて3日目の今朝、息子のプラレールの騒音により6時前に起こされる。2度寝しようとして寝床であれこれ考えているうちに、この問題が自分の中で何となく腑に落ち、生温かいうちに書き記しておきたいと思った。 私が今朝思ったのは、これだ:…

葉っぱのフレディ(1)

ネットで実訳版で読んで感動し、いつか息子の絵本コレクションに加えようと思っていた。しかし先日図書館で日本語訳の絵本(みらいなな訳)を借りてきて読んだところ、私も御多分に洩れず、訳の問題にぶち当たってしまった。 この訳では「死」に対面する場面…

ナウシカの墓所破壊(風の谷のナウシカ 第7巻)

年末年始にかけて漫画版「風の谷のナウシカ」を再読する機会があり、圧倒的に面白かった。初めて読んだのは24歳の時で、以来、私にとって漫画の最高傑作であり続けている。 当時は、清浄と汚濁とに分離してしまってはならないという指摘と、ナウシカの死生観…

谷村省吾さんの「理工系のためのトポロジー・圏論・微分幾何~双対性の視点から」

巡り合うべくして巡り合った1冊と思った。人生を豊かにするために、ここに書かれていることを理解しようと思いながら読んだ、初めての応用数学の本。 「1.6 双対性」の項をピアノ語訳してみると、このようなことが書かれている。 ・私がショパンの曲を弾いて…

応用数学発、内田先生とピアノ経由、ゲド戦記行きの着想(3)

【ゲド戦記シリーズ】 この物語と再会したのはほんの半年ほど前、息子の好きな電車の本を借りに図書館に行くと、私が中学のころ読んだこのゲド戦記が文庫化されていて「児童書」コーナーに置いてあった。「影との戦い」をついでに借りてきて読んだところ、そ…