メメント・モリ、あるいはピアノにかんするエトセトラ

私が人生で出会ったもの・考えたこと

現代奏法のメモ書き(2)

私が大学生だった頃、ようやくネット上の情報が充実し始め、私がこれまで習っていたのは「ハイフィンガー奏法」で、もっと合理的に腕の重さを使う「重量奏法」あるいは「重力奏法」という弾き方があることを知った。 この弾き方を簡単に言うと、肩から腕まで…

現代奏法のメモ書き

先日、現代奏法のレッスンを受けてきた。 比較的高い椅子に座っていくつかの音を弾いたのだが、私のは手の使い方がおかしいという話になった。 先生がお手本で鍵盤をひょいっと弾くと、音がポーンと遠くまで飛んでいって、「こんな感じで打鍵してください」…

ヴィルサラーゼのシューベルト:ソナタD.664ほか(Live Classics)

私が指摘するまでもなく、「美しさ」には、変換(写像)によって美しさを保つものと、失われてしまうものがある。ある種の文学作品は翻訳に耐えられるだろうが、翻訳したとたんに壊れてしまう作品がある。また、ある種の絵画は縮小コピーされて美術の教科書…

音楽の手帖~ピアノとピアニスト(青土社)

"もうひとつのピアノ"の領家さんがblogで取り上げられていたこの本を読んでみた。1980年の初版なので大昔に書かれたものなのだが、一読して感じるのは、この時代は音楽評論が生きていたという事である。本書では音楽評論家と呼ばれる方々がピアニストをまな…

ピュイグ=ロジェの南ヨーロッパ音楽紀行・バロックの世界

昔、ピュイグ=ロジェのピアノ教本を立ち読みしたことがあるのだが、そこにはあまり有名でないバロック作曲家の音の少ない小品がたくさん取り上げられていて、他の教本と比較して異彩を放っていた。 ピュイグ=ロジェは、チェンバロを念頭に書かれたバロック…

「公共の福祉」に込められた思い

「公共の福祉」という言葉は(「教育勅語」という言葉共々)、ああ、そういえば受験勉強で出て来たよね~くらいにしか憶えていなかったのだが、ここ数日間、例の問題に興味をもって色々と調べたところ、そこに込められた先人の思いに気がついた。 私は「公共…

鈴木智博さんのライナーノーツ

「サバテール」という名前と、いったいどこで巡り合ったのか気になって昔の書籍を色々と見返しているうちに、ひょっとすると新星堂「アルフレッド・コルトーの遺産」シリーズの解説書ではないかと思い至った。確か何巻かの解説に、購入当時ほとんど知らなか…

ボロフスキーの1953年パリ・ライヴ(melo)

念願かなって(あるいは、ネット試聴できないCDなので清水の舞台から飛び降りるつもりで)アレクサンダー・ボロフスキー(1889-1968)を初めて聴いた。 予想だにしていなかったピアニズムが聴こえてきて、思わず笑ってしまった。 ロシアのピアニストで言えば、…

反ったMP関節を戻す筋肉

一昨日に練習をしていて気付いたのだが、私の右手は、MP関節が反り返った状態から元の伸びた指に戻す時に使う筋肉が弱い。しかもこの時に使う筋肉は、MP関節が出っ張って山をつくった状態で手の重さを支えるやり方では、あまり鍛えられないようだ。 そこで、…

サバテールのモンポウ:歌と踊り1-12番(Picap)

スペインにサバテールという名手がいるという話を、随分昔に記憶していた(手元にある「200CDピアノとピアニスト」は1996年の初版だが、南欧のピアニストというページに名前が載っている。しかし私はこの本以前にどこかでこの名に出会っていた気がする)。 …

回想の3.11

その日私は、たまたま休暇を取っていた。 午前中に区内の図書館にCDを漁りに行き、お昼にはアパートに一旦帰宅した。しかし、その日に限ってなぜか、午後に隣の区の図書館まで歩いて出かけたくなった。 地震にあったのは、国道を歩いている時だった。 地面が…

サン=サーンスの自作自演集(APR)

"The piano G&Ts"というシリーズのvol.3で、ショーンバーグの「ピアノ音楽の巨匠たち」に記載のあるサン=サーンスの1904年と1919年の自作自演を聴く事ができる。 1919年の録音時、作曲家は83歳であったはずだが、運指に加齢による衰えはおろか苦労の後さえも…

いい音ってなんだろう(村上輝久)

実はこの本に先立って、川崎市で行われた講演録+インタビューと思しき本を読んだ。内容的には結構被るところもあるのだが、おおいに楽しみながら読むことができた。 個人的に興味深かったのは、1967年のマントン音楽祭の調律を一手に引き受けてやっている様…

ガヴリリュクのブラームス:パガニーニ変奏曲他(PIANO CLASSICS)

アレクサンダー・ガヴリリュクは、彼が10代の頃にSACRAMBOWレーベルに入れた録音を聴いて以来、最も素晴らしいと思う若手ピアニストのひとりであった。鍵盤の底への衝突を避ける現代奏法をとりながらも、必要に応じて必要なだけの下部雑音を伴うフォルテを楽…

プリマコフ・イン・コンサート vol.1(Bridge)

長年抱えている疑問のひとつなのだが、ピアニストが本来持っているタッチの印象を、録音をいじることでどの程度変えられるのだろう? むかし、レオニード・クズミンがRussian Discレーベルに入れた一連の録音を聴いたところ、ラフマニノフだけが異様に硬いタ…

ヨッフェのショパン:ソナタ3番他(プロアルテムジケ)

人が"クラシック・オタク"と呼ばれるまでになるとき、先ず作曲家で聴いて、次に演奏家で聴く(そして更に、自身で演奏を試みる!?)という道を辿るらしい。 私の場合も、これは中学生頃なのだが、まずショパンの独奏曲を集め出し、その時に買った中にヨッフ…

今日の気づき

ツェルニーは、 どんなにがんばっても 決してクレイジーにはならない。 CZERNY ⇔ CRAZY

フレージャーのショパン:ピアノ作品集(TELARC)

最近疑問に思っていたことのひとつは、このTELARCレーベルにピアノソロを入れる奏者がおしなべて下部雑音の発生を禁忌するような弾き方に聴こえる事で、ひょっとしてTELARCの特殊なマイクセッティングによる可能性を考えていた。しかし、ようやくここにきて…

ゴルノスターエワのショパン:ソナタ集(REVERATION)

教育者として夙に有名なゴルノスターエワのピアノを初めて聴いたのだが、大変に面白かった。 1929年生まれの奏者で、世代でいうとソ連の戦車ピアニズムの全盛期である。実際ここに聴かれる強奏時の轟音の素晴らしさは完全にソ連のピアニストのものなのだが、…

The Glory of BYZANTIUM(JADE)

まだ大学生だった頃、ムソルグスキーの『展覧会の絵』が、好きではなかった。まずプロムナードのテ-マの繰り返しがしつこく、曲全体をながめても、他のロマン派作曲家の連作と比べて長調と短調の対比バランスも取れていないし…。 しかし、そんな私に訪れた…

中村天平さんの自作自演集 天平 Tempei (Beth Records)

現存する最も若い作曲家で、その作品を弾いてみたいと思うのは、Tempeiこと中村天平さんである(この人の音楽は、今のところクラシックという分類らしい…)。 この盤と出会ったのは、確か2005年ごろ。 当時千葉県に住んでいたのだが、年に数回ほど都内にCD物…

ソコロフのベートーヴェン:ソナタop.106旧録音(eurodisc)

1975年録音のこの旧盤がやっと手元に届き、ソコロフの演奏の変化をようやく聴き比べることができた。 結論として、DGへの新録音は、やはり奏者の年齢相応に音楽が淡泊になっている。良く言えばベートーヴェンの古典性を大事にした演奏といえようか。 一方、…

話題のピアニスト

最近巷で話題沸騰の反田恭平さんの演奏を、これまで聴いた事が無かったのだが、リストのソロ作品集のCDをAmazonで試聴してみて驚いた。 ロシア帰りという事だったので、バリバリの現代奏法で弾く若手ピアニストの姿を想像していたのだが、試聴した限りでは、…

ブーニンの20周年記念コンサート・ライヴ(EMI)

レコード会社がEMIになってからのブーニンは、ショパンのエチュード集とバラード集しか持っていないのだが、この盤が図書館にあったので聴いてみた。 印象としては、他のEMI期の録音と同様、音が(ついでにペダルノイズも)不必要に大きくなった結果、かつて…

デル・プエヨのベートーヴェン:ソナタ全集(PAVANE)

Amazon.frで売られていたのを見つけた時、購入するかどうか正直迷ったのだが、このタイミングで買わないと入手できなくなる気がして、半ば衝動買いしてしまった。 既に2枚組の選集を聴いていたのだが、この全集を耳にして、この演奏の優れているところを改め…

オイストラフ&オボーリンのベートーヴェン:ヴァイオリンソナタ「春」「クロイツェル」

1920年以前生まれの、色とりどりの名ピアニスト群の録音を入手するときに、モノラル録音(SPへの録音ではなく、1950年代頃の)を避けたいタイプのピアニストが2種類いる。ひとつめは、ホロヴィッツやチェルカスキーなどの「音色の魔術師」、もうひとつが下…

シャンドール・ピアノ教本(シャンドール)(2)

(続き) 2番目に良かった事は、私が何となくやっている最強音を弾くための方法:弾きたい音の上に指をのせて、筋肉の瞬発力と腕のしなりを使って鍵盤を押すやり方が、ピアノを弾くときの5つの基本動作のひとつとして「突き」と命名されて解説されていたこと…

シャンドール・ピアノ教本(シャンドール)(1)

いつか読みたいと思っていたのだが、ようやく図書館で借りてきて読むことができた。 読んで一番素晴らしかったことは、長年の疑問が何となく腑に落ちたことだ。 その疑問とは、白鍵をドレミファソと弾いた時の手首の使用に関してである。 ネット上でピアノ奏…

ソコロフのベートーヴェン:ソナタop.106他(DG)改訂版

(前からの続き) この最新盤を聴いて前作からの芸風の激変にがっかりした私は、過去のソコロフの録音で持っていないものを買い漁り出した。 最初に手元に届いたのは、91年録音のベートーヴェン:ソナタop.7と101他であった。 ここにいつものソコロフを見出…

ハイドシェックのバッハ:平均律第2集より(Polymnie)

平均律第2集5番の譜読みを始めようとしたまさに直前に、トラック1にこの曲が収録された本盤が届くとは、何という巡り合わせだろう!Amazon.frでひっそりと売られていたこのCDは、ハイドシェックの最新録音で、平均律第2集から12曲が自由な順番で配置されて…

音楽家の名言-あなたの演奏を変える127のメッセージ(檜山乃武)

よくある名言集で、127もの言葉があれば読み手によって心に響く言葉はそれぞれだと思うが、私は、大好きなクラウディオ・アラウのこの言葉に心打たれた。 「どんなに小さな才能であっても、誠実な気持ちがあれば、その才能には音楽的に伝ええるものがたとえ…

ロシア・ピアニズムの系譜(佐藤泰一)

懐かしい!大学の時に借りて読んだこの本と、図書館で再開した(1992年の初版となっており、今読むといささか古さを感じさせる)。 著者の佐藤泰一さんは、惜しくも2009年に亡くなられたが、アマチュアのピアノ愛好家(本職は技術者)で、ショパン・オタク、…

わが人生(チッコリーニ)

アルド・チッコリーニは必ずしも全面的に好きなピアニストという訳ではないのだが、2000年を過ぎたころからの録音に聴かれる芸格の深化を心から敬っている。 この自伝は、数年前に図書館でパラパラと読んでいたところ、この言葉が目に飛び込んできて、即座に…

ソコロフのベートーヴェン:ソナタop.106他(DG)

(ここに書いた内容は、読んで貰った方には申し訳ないが、その後に聴き直して、考えを一切改めた。改訂版 http://taikichan.hatenablog.com/entry/2017/02/02/001852) 今年、ショックを受けたCD第1弾。 CD2のハンマークラヴィーアから聴き出したのだが、こ…

アルゲリッチの録音に聴かれる音

自分が書いたものを読み返していたのだが、"アルゲリッチは鍵盤を底まで弾かない"とだけ書くと、(このブログの想定読者である、私と同じくらいピアノ好きに成長した息子から)「底を弾いている音が聴こえるじゃないか」と反論が有りそうなので、補足してお…

スクリャービンとスクリャビニスト(SAISON RUSSE)

有名なop.8-12を含む小品8曲が作曲家自身の演奏で残されており、大変明瞭な録音でソフロニツキーにそっくりの呪術的ピアニズムを堪能することができる(正しい順序でいうと、娘婿であり伝道師のソフロニツキーが作曲者にそっくりというべき)。 この録音には…

ブラームス:recaptured by pupil & colleagues (Arbiter)

邦語訳すると「音楽仲間と弟子たちの回想と演奏によって再体験するブラームス」だろうか。CD2枚組のうち1枚分くらいがインタビューやレッスン時の録音の切れっぱしで、雑多な印象を受ける。 本CDの目玉であるブラームスの録音(シュトラウスのテーマによる即…

ポリーニ考

(前の記事からの微妙な続き)『ポリーニはアシュケナージと並ぶ人気ピアニストで、過去、現在を通じ、技術的に彼を凌ぐものは居ないだろう』。 これは、私が中学1年生の時に初めて出会った音楽評論で、先日亡くなられた宇野功芳さんがポリーニを紹介したと…

ピアニストが見たピアニスト(青柳いづみこ)

ネットで合理的奏法を調べていて、思わず膝を打つ言葉に出くわした。 『鍵盤を底までしっかり弾くと、指が疲れる』 正に、その通り! ハンマーの動作ポイントを超えて底までしっかり弾くと、底からの反作用の力を指がもろに受けて、疲れるのである。 最近よ…

倍音(中村明一)

(1) 鍵盤をしっかり底まで打鍵することによって発生する下部雑音に関することを、これまでのいくつかの話題で言及したのだが、では私は下部雑音否定派かというと、決してそうではない。下部雑音の含まれた打鍵を聴くと、私は強靭な「意志の力」のようなもの…

11ぴきのねこ(馬場のぼる)

少し前の休日、夜寝る前の息子に、今晩はどの絵本を読んでほしいか尋ねたときに持ってきたのが、この絵本だった。私はこのとき初めてこの作品を読んだのだが、大変な衝撃を受けた。まるで作者の馬場のぼるさんが、読み聞かせしている親に向けて「我々日本人…

ファツィオリの音が苦手

注目しているピアニストのCDが届いたのだが、よく見ると使用ピアノがファツィオリと書いてあってがっかりしている。 正直に告白すると、ファツィオリの音が苦手だ。 このピアノで録音されたCDから私が感じる音の印象は、このワイルさんのインタビューで述べ…

花岡さんのチェレプニン・コレクション・ピアノ曲集(bellwood record)

田所さんのお薦め曲を聴いてみる(3) このCDはチェレプニンのピアノ曲集ではなく、チェレプニンが紹介した当時の日本人作曲家のピアノ曲集。目当ては伊福部昭のピアノ組曲であった。 伊福部昭のことは、ゴジラの音楽を作った人くらいの知識しかなかったが、こ…

ラヴァルのシャミナード:ピアノ作品集(EMI)

田所さんのお薦め曲を聴いてみる編(2) 図書館でたまたま有ったため、聴いてみた。収録中の半分はソナタop.21、残りはop.35を中心とした小品集で構成されている。 作風は、wikipediaで述べられている「シャブリエとプーランクをつなぐ(中間に位置する)」と…

ホフマンのモシュコフスキー:スペイン奇想曲他(VAI)

田所さんのお薦め曲を聴いてみる編(1) 私のささやかなコレクションは、作曲家別ではCDをあまり持っておらず、このスペイン奇想曲を誰かが弾いていないか探し出すのに苦労した。 ホフマンは私の所有する限りでも、この1916年スタジオ録音と、1937年のゴールデ…

田所政人さんの「あるピアニストの一生」

ひと月ほど前、「あるピアニストの一生」から引用したとされる難易度28段階表を発見して、次に譜読みする作品を決めるのに重宝させて頂いていた。 ただしこの表の欠点は近現代の作品が少ない事で、例えばスクリャービンのソナタやアルベニスのイベリアはどの…

バックハウスと「風の谷のナウシカ」映画版に共通する豊かさについて

風の谷のナウシカに登場する人類は腐海の毒(カビ)に苦しんでいるが、実家に帰省した私はハウスダスト(カビ)に苦しんでいる。眠れない夜に、このふたつを結び付けてまとめておくというアイデアかぼうっと浮かんだので、忘れないうちに書いておきたい。昔…

電子ピアノならではの利点

1年ぶりに帰省している。 実家にはグランドがなく、大学生の時まで弾いていたアップライトと、転勤の時に買った疑似ハンマー付きの電子ピアノで交互に練習した。響きを作り出す事に関しては断然アップライトのほうが優れているのだが、電子ピアノで最大の利…

2017年にやりたいこと

今週のお題「2017年にやりたいこと」2016年のピアノ生活を振り返って一番向上したのは読譜力だった。 現在おおよそ1時間に10ページほど読むことができるようになり、CDで聴いて気に入った作品をひと通り全部読んでみようという夢のような計画が、現実味を帯…

ピアノを弾く手(酒井直隆)

内容の約半分が近代奏法への発展について書かれており、私はこの本で初めてトバイアス・マティ(イギリスのAPRレーベルから往年の名ピアニストの録音がマティ門下シリーズとして復刻されたのが記憶に新しい)の教えに触れることができた。 一番感動的であっ…