メメント・モリ、あるいはピアノにかんするエトセトラ

私が人生で出会ったもの・考えたこと

ゴルノスターエワのショパン:ソナタ集(REVERATION)

教育者として夙に有名なゴルノスターエワのピアノを初めて聴いたのだが、大変に面白かった。 1929年生まれの奏者で、世代でいうとソ連の戦車ピアニズムの全盛期である。実際ここに聴かれる強奏時の轟音の素晴らしさは完全にソ連のピアニストのものなのだが、…

The Glory of BYZANTIUM(JADE)

まだ大学生だった頃、ムソルグスキーの『展覧会の絵』が、好きではなかった。まずプロムナードのテ-マの繰り返しがしつこく、曲全体をながめても、他のロマン派作曲家の連作と比べて長調と短調の対比バランスも取れていないし…。 しかし、そんな私に訪れた…

中村天平さんの自作自演集 天平 Tempei (Beth Records)

現存する最も若い作曲家で、その作品を弾いてみたいと思うのは、Tempeiこと中村天平さんである(この人の音楽は、今のところクラシックという分類らしい…)。 この盤と出会ったのは、確か2005年ごろ。 当時千葉県に住んでいたのだが、年に数回ほど都内にCD物…

ソコロフのベートーヴェン:ソナタop.106旧録音(eurodisc)

1975年録音のこの旧盤がやっと手元に届き、ソコロフの演奏の変化をようやく聴き比べることができた。 結論として、DGへの新録音は、やはり奏者の年齢相応に音楽が淡泊になっている。良く言えばベートーヴェンの古典性を大事にした演奏といえようか。 一方、…

話題のピアニスト

最近巷で話題沸騰の反田恭平さんの演奏を、これまで聴いた事が無かったのだが、リストのソロ作品集のCDをAmazonで試聴してみて驚いた。 ロシア帰りという事だったので、バリバリの現代奏法で弾く若手ピアニストの姿を想像していたのだが、試聴した限りでは、…

ブーニンの20周年記念コンサート・ライヴ(EMI)

レコード会社がEMIになってからのブーニンは、ショパンのエチュード集とバラード集しか持っていないのだが、この盤が図書館にあったので聴いてみた。 印象としては、他のEMI期の録音と同様、音が(ついでにペダルノイズも)不必要に大きくなった結果、かつて…

デル・プエヨのベートーヴェン:ソナタ全集(PAVANE)

Amazon.frで売られていたのを見つけた時、購入するかどうか正直迷ったのだが、このタイミングで買わないと入手できなくなる気がして、半ば衝動買いしてしまった。 既に2枚組の選集を聴いていたのだが、この全集を耳にして、この演奏の優れているところを改め…

オイストラフ&オボーリンのベートーヴェン:ヴァイオリンソナタ「春」「クロイツェル」

1920年以前生まれの、色とりどりの名ピアニスト群の録音を入手するときに、モノラル録音(SPへの録音ではなく、1950年代頃の)を避けたいタイプのピアニストが2種類いる。ひとつめは、ホロヴィッツやチェルカスキーなどの「音色の魔術師」、もうひとつが下…

シャンドール・ピアノ教本(シャンドール)(2)

(続き) 2番目に良かった事は、私が何となくやっている最強音を弾くための方法:弾きたい音の上に指をのせて、筋肉の瞬発力と腕のしなりを使って鍵盤を押すやり方が、ピアノを弾くときの5つの基本動作のひとつとして「突き」と命名されて解説されていたこと…

シャンドール・ピアノ教本(シャンドール)(1)

いつか読みたいと思っていたのだが、ようやく図書館で借りてきて読むことができた。 読んで一番素晴らしかったことは、長年の疑問が何となく腑に落ちたことだ。 その疑問とは、白鍵をドレミファソと弾いた時の手首の使用に関してである。 ネット上でピアノ奏…

ソコロフのベートーヴェン:ソナタop.106他(DG)改訂版

(前からの続き) この最新盤を聴いて前作からの芸風の激変にがっかりした私は、過去のソコロフの録音で持っていないものを買い漁り出した。 最初に手元に届いたのは、91年録音のベートーヴェン:ソナタop.7と101他であった。 ここにいつものソコロフを見出…

ハイドシェックのバッハ:平均律第2集より(Polymnie)

平均律第2集5番の譜読みを始めようとしたまさに直前に、トラック1にこの曲が収録された本盤が届くとは、何という巡り合わせだろう!Amazon.frでひっそりと売られていたこのCDは、ハイドシェックの最新録音で、平均律第2集から12曲が自由な順番で配置されて…

音楽家の名言-あなたの演奏を変える127のメッセージ(檜山乃武)

よくある名言集で、127もの言葉があれば読み手によって心に響く言葉はそれぞれだと思うが、私は、大好きなクラウディオ・アラウのこの言葉に心打たれた。 「どんなに小さな才能であっても、誠実な気持ちがあれば、その才能には音楽的に伝ええるものがたとえ…

ロシア・ピアニズムの系譜(佐藤泰一)

懐かしい!大学の時に借りて読んだこの本と、図書館で再開した(1992年の初版となっており、今読むといささか古さを感じさせる)。 著者の佐藤泰一さんは、惜しくも2009年に亡くなられたが、アマチュアのピアノ愛好家(本職は技術者)で、ショパン・オタク、…

わが人生(チッコリーニ)

アルド・チッコリーニは必ずしも全面的に好きなピアニストという訳ではないのだが、2000年を過ぎたころからの録音に聴かれる芸格の深化を心から敬っている。 この自伝は、数年前に図書館でパラパラと読んでいたところ、この言葉が目に飛び込んできて、即座に…

ソコロフのベートーヴェン:ソナタop.106他(DG)

(ここに書いた内容は、読んで貰った方には申し訳ないが、その後に聴き直して、考えを一切改めた。改訂版 http://taikichan.hatenablog.com/entry/2017/02/02/001852) 今年、ショックを受けたCD第1弾。 CD2のハンマークラヴィーアから聴き出したのだが、こ…

アルゲリッチの録音に聴かれる音

自分が書いたものを読み返していたのだが、"アルゲリッチは鍵盤を底まで弾かない"とだけ書くと、(このブログの想定読者である、私と同じくらいピアノ好きに成長した息子から)「底を弾いている音が聴こえるじゃないか」と反論が有りそうなので、補足してお…

スクリャービンとスクリャビニスト(SAISON RUSSE)

有名なop.8-12を含む小品8曲が作曲家自身の演奏で残されており、大変明瞭な録音でソフロニツキーにそっくりの呪術的ピアニズムを堪能することができる(正しい順序でいうと、娘婿であり伝道師のソフロニツキーが作曲者にそっくりというべき)。 この録音には…

ブラームス:recaptured by pupil & colleagues (Arbiter)

邦語訳すると「音楽仲間と弟子たちの回想と演奏によって再体験するブラームス」だろうか。CD2枚組のうち1枚分くらいがインタビューやレッスン時の録音の切れっぱしで、雑多な印象を受ける。 本CDの目玉であるブラームスの録音(シュトラウスのテーマによる即…

ポリーニ考

(前の記事からの微妙な続き)『ポリーニはアシュケナージと並ぶ人気ピアニストで、過去、現在を通じ、技術的に彼を凌ぐものは居ないだろう』。 これは、私が中学1年生の時に初めて出会った音楽評論で、先日亡くなられた宇野功芳さんがポリーニを紹介したと…

ピアニストが見たピアニスト(青柳いづみこ)

ネットで合理的奏法を調べていて、思わず膝を打つ言葉に出くわした。 『鍵盤を底までしっかり弾くと、指が疲れる』 正に、その通り! ハンマーの動作ポイントを超えて底までしっかり弾くと、底からの反作用の力を指がもろに受けて、疲れるのである。 最近よ…

倍音(中村明一)

(1) 鍵盤をしっかり底まで打鍵することによって発生する下部雑音に関することを、これまでのいくつかの話題で言及したのだが、では私は下部雑音否定派かというと、決してそうではない。下部雑音の含まれた打鍵を聴くと、私は強靭な「意志の力」のようなもの…

11ぴきのねこ(馬場のぼる)

少し前の休日、夜寝る前の息子に、今晩はどの絵本を読んでほしいか尋ねたときに持ってきたのが、この絵本だった。私はこのとき初めてこの作品を読んだのだが、大変な衝撃を受けた。まるで作者の馬場のぼるさんが、読み聞かせしている親に向けて「我々日本人…

ファツィオリの音が苦手

注目しているピアニストのCDが届いたのだが、よく見ると使用ピアノがファツィオリと書いてあってがっかりしている。 正直に告白すると、ファツィオリの音が苦手だ。 このピアノで録音されたCDから私が感じる音の印象は、このワイルさんのインタビューで述べ…

花岡さんのチェレプニン・コレクション・ピアノ曲集(bellwood record)

田所さんのお薦め曲を聴いてみる(3) このCDはチェレプニンのピアノ曲集ではなく、チェレプニンが紹介した当時の日本人作曲家のピアノ曲集。目当ては伊福部昭のピアノ組曲であった。 伊福部昭のことは、ゴジラの音楽を作った人くらいの知識しかなかったが、こ…

ラヴァルのシャミナード:ピアノ作品集(EMI)

田所さんのお薦め曲を聴いてみる編(2) 図書館でたまたま有ったため、聴いてみた。収録中の半分はソナタop.21、残りはop.35を中心とした小品集で構成されている。 作風は、wikipediaで述べられている「シャブリエとプーランクをつなぐ(中間に位置する)」と…

ホフマンのモシュコフスキー:スペイン奇想曲他(VAI)

田所さんのお薦め曲を聴いてみる編(1) 私のささやかなコレクションは、作曲家別ではCDをあまり持っておらず、このスペイン奇想曲を誰かが弾いていないか探し出すのに苦労した。 ホフマンは私の所有する限りでも、この1916年スタジオ録音と、1937年のゴールデ…

田所政人さんの「あるピアニストの一生」

ひと月ほど前、「あるピアニストの一生」から引用したとされる難易度28段階表を発見して、次に譜読みする作品を決めるのに重宝させて頂いていた。 ただしこの表の欠点は近現代の作品が少ない事で、例えばスクリャービンのソナタやアルベニスのイベリアはどの…

バックハウスと「風の谷のナウシカ」映画版に共通する豊かさについて

風の谷のナウシカに登場する人類は腐海の毒(カビ)に苦しんでいるが、実家に帰省した私はハウスダスト(カビ)に苦しんでいる。?眠れない夜に、このふたつを結び付けてまとめておくというアイデアかぼうっと浮かんだので、忘れないうちに書いておきたい。昔…

電子ピアノならではの利点

1年ぶりに帰省している。 実家にはグランドがなく、大学生の時まで弾いていたアップライトと、転勤の時に買った疑似ハンマー付きの電子ピアノで交互に練習した。響きを作り出す事に関しては断然アップライトのほうが優れているのだが、電子ピアノで最大の利…

2017年にやりたいこと

今週のお題「2017年にやりたいこと」2016年のピアノ生活を振り返って一番向上したのは読譜力だった。 現在おおよそ1時間に10ページほど読むことができるようになり、CDで聴いて気に入った作品をひと通り全部読んでみようという夢のような計画が、現実味を帯…

ピアノを弾く手(酒井直隆)

内容の約半分が近代奏法への発展について書かれており、私はこの本で初めてトバイアス・マティ(イギリスのAPRレーベルから往年の名ピアニストの録音がマティ門下シリーズとして復刻されたのが記憶に新しい)の教えに触れることができた。 一番感動的であっ…

ラヴェルの音楽の通奏低音

ラ・ヴァルスのピアノ独奏版とオーケストラ版を聴き比べしていて、漠然と浮かんだ。 ❝かつては存在していた。今はもうない。❞ 思い浮かんだ後に、これは「死」の類似概念で、(ショパンと同様に)すべての作品で、ある種の死にまつわる何かを書いたのではな…

ラローチャのラヴェル:高貴で感傷的なワルツ、ソナチネ(RCA)

ラローチャの録音を整理していて、そういえば晩年RCAにラヴェルの独奏曲をCD半分ほど入れていたのを思いだした。 たまたま図書館にあったため聴いてみたのだか、思いのほか素晴らしく、私の聴いたかぎりでは非スペイン物の録音のなかで最高傑作だと思った。…

オルティズのヴィラ=ロボス:シクロ・ブラジリエロ他(Decca)

私のささやかなコレクションにて所有しているもう一枚。オルティズの演奏は前述のモレイラ=リマのものとは対照的に早めのテンポと鋭いリズムで弾ききっている。この演奏スタイルゆえに併録のブラジル風バッハでは物足りなく感じる時があるのだが、シクロ・…

モレイラ=リマのヴィラ=ロボス:シクロ・ブラジリエロ他(AZUR MUSIC)

ここ数日、ヴィラ=ロボスのシクロ・ブラジリエロを聴き直している。このピアノ曲は、最高傑作のブラジル風バッハ4番と比較すると楽想の展開力が弱く、あたかもカデンツァを横につなげたような造りになっている。 モレイラ=リマのこの一連のヴィラ=ロボス…

セレブリャコフのラフマニノフ:小品集(MANCHESTER)

(続き) 2枚目は、op.3の幻想小曲集、楽興の時、前奏曲集と音の絵から各数曲が、録音状態もまちまちに寄せ集められたラフマニノフ集。私がこの奏者の再現芸術家としての力量を決定的に確信したのは、こちらのCDであった。ヴィルトゥオーゾ作品での闊達さも…

セレブリャコフのショパン:葬送ソナタ他(MANCHESTER)

今年最大の発見は、このパーヴェル・セレブリャコフを初めて聴けた事であった。1枚目は、ベートーヴェンの熱情、ショパンの葬送ソナタにラフマニノフの2番ソナタというカップリング。見るからに強面のジャケット写真から、元祖の重戦車ピアニストではないか…

オスカー・ピーターソン:We Get Requests(Verve)

通常の音量(mpとmfの間の音量)を要求される急速なパッセージを、ノンペダルで弾いて尚且つ整った粒立ちの音を聴いた時、昔から「このピアニストは奏法の完成度が高い」と感じていた。 これがどうも、いわゆる合理的な脱力奏法を発展させた、鍵盤の底への衝…

プロコフィエフ:自作自演集(Naxos)

プロコフィエフに関する最大の誤解は(ひょっとすると誤解しているのは私のような世代だけかもしれないが)、その主要なピアノ作品が世界的に認知された時代が、ソ連の重戦車ピアニズム全盛期と重なってしまい、そういう弾かれ方をした録音が代表的な演奏に…

アファナシエフのモーツァルト:ソナタK.310,330,331(Sony)

アファナシエフは、K.310のソナタを前アルバムのK.457と同じくらいに我々にとって異形なものとして造形した。そしてK.330と331は、我々の知るものからそう遠くない位置に置いた。 つまるところ、このピアニストは自分の特異な芸風を誇示するために作品を利用…

非等拍系の作曲家

今朝ネットでハーフタッチについて検索していたところ、現代奏法を教えられているピアノ教室の非常に秀逸なページを見つけて、大変勉強させて頂いた。更に楽曲解説のところを覗いたところ、ショパンに関して、極力テンポを動かさないようにと書いてあり、現…

ジョン・キムラ・パーカーのショパン:ピアノ作品集(Telarc)

今年初めて録音を聴いたピアニストの中でも最大の発見のひとり。キムラ・パーカーは1959年生まれというが、1979年生まれですと紹介されて聴いても全く違和感がないほど最新のピアノ奏法でショパンを弾いている。それは鍵盤の底への衝突を極力回避したピアノ…

ブラームスの変奏曲op.21-1

E.フィッシャーの名演の感動さめやらぬ中、1時間かかって最後まで指を通した。感じたことを列挙すると、 ・明らかにベートーヴェンのソナタ30番と32番の変奏曲をもとにしている。 ・変奏曲といいながら練習曲を志向しているようなところがあり、小難しい。将…

E.フィッシャーのブラームス:op.21-1他(Music&Arts)

ブラームスのピアノ独奏曲でいちばん好きな作品は?と聞かれたら、現在の私はこのop.21-1の変奏曲と答える。後期ベートーヴェンの前に頭を下げて心から敬服している若きブラームス像が大好きなのだ(根っからのブラームスファンにとっては邪道かもしれない)…

ゲルナーのリスト:ソナタ他(CASCAVELLE)

リストのソナタを聴いて、最初の数分、近年でも出色の演奏に出会ったと思った。やがて、フォルテを弾いている時の音の鳴り方が妙なのが気になりだす。打鍵後に音が減衰するどころか、若干増加しているような…よほど特殊な残響のホールで採られたのかな!?や…

永遠的なものの継承様式3

(続き) (14) 内田先生の師弟関係の話の戻ろう。師が弟子の前で示す技芸や知見は、師に課された制約条件(これは、肉体的な条件であったり、文化的な背景であったり、色々と考えられる)のもとで、そういったものを超越する何かを表出しようとするために取…

永遠的なものの継承様式2

(続き) (7) ここで、具体例として私が人生の物事を考える上での最良の物差しであるピアノの話になる。 (8) エトヴィン・フィッシャーの「音楽観想」の中に、ポツダムでのマスターコースにおける速記録が収められており、バッハのBWV.911を語るシーンが出て…

永遠的なものの継承様式1

(1) アメリカ大統領選挙の結果を受けて、大変に驚いている。ブレグジットに引き続き、立て続けにテイルリスクが現実化してしまった感じだ。 (2) "テイルリスク"などという言葉を使うと、事前にどれくらいの可能性で現実化しえたものか"知っテイル"つもりにな…

ゾルタン・コチシュの訃報

急な話を受けて、心底驚いた。64歳、あまりにも早すぎる死である。 個人的には、この世代で最もメカニックの安定度が高く(ただし、その分音色の魅力が少ない)、そしてその事を微塵も感じさせないほど知性的な音楽をする奏者という印象だった。 思い出深い…