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メメント・モリ、あるいはピアノにかんするエトセトラ

私が人生で出会ったもの・考えたこと

倍音(中村明一)

(1) 鍵盤をしっかり底まで打鍵することによって発生する下部雑音に関することを、これまでのいくつかの話題で言及したのだが、では私は下部雑音否定派かというと、決してそうではない。下部雑音の含まれた打鍵を聴くと、私は強靭な「意志の力」のようなもの…

11ぴきのねこ(馬場のぼる)

少し前の休日、夜寝る前の息子に、今晩はどの絵本を読んでほしいか尋ねたときに持ってきたのが、この絵本だった。私はこのとき初めてこの作品を読んだのだが、大変な衝撃を受けた。まるで作者の馬場のぼるさんが、読み聞かせしている親に向けて「我々日本人…

ファツィオリの音が苦手

注目しているピアニストのCDが届いたのだが、よく見ると使用ピアノがファツィオリと書いてあってがっかりしている。 正直に告白すると、ファツィオリの音が苦手だ。 このピアノで録音されたCDから私が感じる音の印象は、このワイルさんのインタビューで述べ…

花岡さんのチェレプニン・コレクション・ピアノ曲集(bellwood record)

田所さんのお薦め曲を聴いてみる(3) このCDはチェレプニンのピアノ曲集ではなく、チェレプニンが紹介した当時の日本人作曲家のピアノ曲集。目当ては伊福部昭のピアノ組曲であった。 伊福部昭のことは、ゴジラの音楽を作った人くらいの知識しかなかったが、こ…

ラヴァルのシャミナード:ピアノ作品集(EMI)

田所さんのお薦め曲を聴いてみる編(2) 図書館でたまたま有ったため、聴いてみた。収録中の半分はソナタop.21、残りはop.35を中心とした小品集で構成されている。 作風は、wikipediaで述べられている「シャブリエとプーランクをつなぐ(中間に位置する)」と…

ホフマンのモシュコフスキー:スペイン奇想曲他(VAI)

田所さんのお薦め曲を聴いてみる編(1) 私のささやかなコレクションは、作曲家別ではCDをあまり持っておらず、このスペイン奇想曲を誰かが弾いていないか探し出すのに苦労した。 ホフマンは私の所有する限りでも、この1916年スタジオ録音と、1937年のゴールデ…

田所政人さんの「あるピアニストの一生」

ひと月ほど前、「あるピアニストの一生」から引用したとされる難易度28段階表を発見して、次に譜読みする作品を決めるのに重宝させて頂いていた。 ただしこの表の欠点は近現代の作品が少ない事で、例えばスクリャービンのソナタやアルベニスのイベリアはどの…

バックハウスと「風の谷のナウシカ」映画版に共通する豊かさについて

風の谷のナウシカに登場する人類は腐海の毒(カビ)に苦しんでいるが、実家に帰省した私はハウスダスト(カビ)に苦しんでいる。眠れない夜に、このふたつを結び付けてまとめておくというアイデアかぼうっと浮かんだので、忘れないうちに書いておきたい。昔…

電子ピアノならではの利点

1年ぶりに帰省している。 実家にはグランドがなく、大学生の時まで弾いていたアップライトと、転勤の時に買った疑似ハンマー付きの電子ピアノで交互に練習した。響きを作り出す事に関しては断然アップライトのほうが優れているのだが、電子ピアノで最大の利…

2017年にやりたいこと

今週のお題「2017年にやりたいこと」2016年のピアノ生活を振り返って一番向上したのは読譜力だった。 現在おおよそ1時間に10ページほど読むことができるようになり、CDで聴いて気に入った作品をひと通り全部読んでみようという夢のような計画が、現実味を帯…

ピアノを弾く手(酒井直隆)

内容の約半分が近代奏法への発展について書かれており、私はこの本で初めてトバイアス・マティ(イギリスのAPRレーベルから往年の名ピアニストの録音がマティ門下シリーズとして復刻されたのが記憶に新しい)の教えに触れることができた。 一番感動的であっ…

ラヴェルの音楽の通奏低音

ラ・ヴァルスのピアノ独奏版とオーケストラ版を聴き比べしていて、漠然と浮かんだ。 ❝かつては存在していた。今はもうない。❞ 思い浮かんだ後に、これは「死」の類似概念で、(ショパンと同様に)すべての作品で、ある種の死にまつわる何かを書いたのではな…

ラローチャのラヴェル:高貴で感傷的なワルツ、ソナチネ(RCA)

ラローチャの録音を整理していて、そういえば晩年RCAにラヴェルの独奏曲をCD半分ほど入れていたのを思いだした。 たまたま図書館にあったため聴いてみたのだか、思いのほか素晴らしく、私の聴いたかぎりでは非スペイン物の録音のなかで最高傑作だと思った。…

オルティズのヴィラ=ロボス:シクロ・ブラジリエロ他(Decca)

私のささやかなコレクションにて所有しているもう一枚。オルティズの演奏は前述のモレイラ=リマのものとは対照的に早めのテンポと鋭いリズムで弾ききっている。この演奏スタイルゆえに併録のブラジル風バッハでは物足りなく感じる時があるのだが、シクロ・…

モレイラ=リマのヴィラ=ロボス:シクロ・ブラジリエロ他(AZUR MUSIC)

ここ数日、ヴィラ=ロボスのシクロ・ブラジリエロを聴き直している。このピアノ曲は、最高傑作のブラジル風バッハ4番と比較すると楽想の展開力が弱く、あたかもカデンツァを横につなげたような造りになっている。 モレイラ=リマのこの一連のヴィラ=ロボス…

セレブリャコフのラフマニノフ:小品集(MANCHESTER)

(続き) 2枚目は、op.3の幻想小曲集、楽興の時、前奏曲集と音の絵から各数曲が、録音状態もまちまちに寄せ集められたラフマニノフ集。私がこの奏者の再現芸術家としての力量を決定的に確信したのは、こちらのCDであった。ヴィルトゥオーゾ作品での闊達さも…

セレブリャコフのショパン:葬送ソナタ他(MANCHESTER)

今年最大の発見は、このパーヴェル・セレブリャコフを初めて聴けた事であった。1枚目は、ベートーヴェンの熱情、ショパンの葬送ソナタにラフマニノフの2番ソナタというカップリング。見るからに強面のジャケット写真から、元祖の重戦車ピアニストではないか…

オスカー・ピーターソン:We Get Requests(Verve)

通常の音量(mpとmfの間の音量)を要求される急速なパッセージを、ノンペダルで弾いて尚且つ整った粒立ちの音を聴いた時、昔から「このピアニストは奏法の完成度が高い」と感じていた。 これがどうも、いわゆる合理的な脱力奏法を発展させた、鍵盤の底への衝…

プロコフィエフ:自作自演集(Naxos)

プロコフィエフに関する最大の誤解は(ひょっとすると誤解しているのは私のような世代だけかもしれないが)、その主要なピアノ作品が世界的に認知された時代が、ソ連の重戦車ピアニズム全盛期と重なってしまい、そういう弾かれ方をした録音が代表的な演奏に…

アファナシエフのモーツァルト:ソナタK.310,330,331(Sony)

アファナシエフは、K.310のソナタを前アルバムのK.457と同じくらいに我々にとって異形なものとして造形した。そしてK.330と331は、我々の知るものからそう遠くない位置に置いた。 つまるところ、このピアニストは自分の特異な芸風を誇示するために作品を利用…

非等拍系の作曲家

今朝ネットでハーフタッチについて検索していたところ、現代奏法を教えられているピアノ教室の非常に秀逸なページを見つけて、大変勉強させて頂いた。更に楽曲解説のところを覗いたところ、ショパンに関して、極力テンポを動かさないようにと書いてあり、現…

ジョン・キムラ・パーカーのショパン:ピアノ作品集(Telarc)

今年初めて録音を聴いたピアニストの中でも最大の発見のひとり。キムラ・パーカーは1959年生まれというが、1979年生まれですと紹介されて聴いても全く違和感がないほど最新のピアノ奏法でショパンを弾いている。それは鍵盤の底への衝突を極力回避したピアノ…

ブラームスの変奏曲op.21-1

E.フィッシャーの名演の感動さめやらぬ中、1時間かかって最後まで指を通した。感じたことを列挙すると、 ・明らかにベートーヴェンのソナタ30番と32番の変奏曲をもとにしている。 ・変奏曲といいながら練習曲を志向しているようなところがあり、小難しい。将…

E.フィッシャーのブラームス:op.21-1他(Music&Arts)

ブラームスのピアノ独奏曲でいちばん好きな作品は?と聞かれたら、現在の私はこのop.21-1の変奏曲と答える。後期ベートーヴェンの前に頭を下げて心から敬服している若きブラームス像が大好きなのだ(根っからのブラームスファンにとっては邪道かもしれない)…

ゲルナーのリスト:ソナタ他(CASCAVELLE)

リストのソナタを聴いて、最初の数分、近年でも出色の演奏に出会ったと思った。やがて、フォルテを弾いている時の音の鳴り方が妙なのが気になりだす。打鍵後に音が減衰するどころか、若干増加しているような…よほど特殊な残響のホールで採られたのかな!?や…

永遠的なものの継承様式3

(続き) (14) 内田先生の師弟関係の話の戻ろう。師が弟子の前で示す技芸や知見は、師に課された制約条件(これは、肉体的な条件であったり、文化的な背景であったり、色々と考えられる)のもとで、そういったものを超越する何かを表出しようとするために取…

永遠的なものの継承様式2

(続き) (7) ここで、具体例として私が人生の物事を考える上での最良の物差しであるピアノの話になる。 (8) エトヴィン・フィッシャーの「音楽観想」の中に、ポツダムでのマスターコースにおける速記録が収められており、バッハのBWV.911を語るシーンが出て…

永遠的なものの継承様式1

(1) アメリカ大統領選挙の結果を受けて、大変に驚いている。ブレグジットに引き続き、立て続けにテイルリスクが現実化してしまった感じだ。 (2) "テイルリスク"などという言葉を使うと、事前にどれくらいの可能性で現実化しえたものか"知っテイル"つもりにな…

ゾルタン・コチシュの訃報

急な話を受けて、心底驚いた。64歳、あまりにも早すぎる死である。 個人的には、この世代で最もメカニックの安定度が高く(ただし、その分音色の魅力が少ない)、そしてその事を微塵も感じさせないほど知性的な音楽をする奏者という印象だった。 思い出深い…

ジャニスのムソルグスキー:展覧会の絵(マーキュリー)

演奏は1958年のRCA盤と甲乙つけがたく、むしろ音の取られ方の違いのほうに注意が行ってしまう。 ジャニスは鍵盤のそこまでしっかり打ち込んだ強靭なタッチをする人だ(下部雑音=楽音という考え方だ)。私の耳にはマーキュリーの録音のほうが下部雑音を明確…

マガロフのムソルグスキー:展覧会の絵他(DISQUES MONTAIGNE)

2年くらい前に初めて聴いて"調子悪いライヴ"に分類していたのだが、今回聴き直してみて大いに印象が変わった。 録音に関する情報が一切記されていないのだが、おそらく80年代末の、モントルー音楽祭にまつわるライヴ又は放送録音のうちロシア物を集めた1枚で…

クライバーンのショパン:ピアノ作品集(RCA)

これまで避けていたクライバーンのスタジオ録音からいちばん有名なものを選んで聴いてみたが、これまた反省するところ大であった。 私はこの奏者を"第1回チャイコン優勝者"の肩書から(当時の)ソ連のピアニスト張りにブリリアントな芸風の持ち主と勝手に決…

ケフェレックのラヴェル:ピアノ独奏曲全集(Virgin)

以前図書館で選集を借りて聴いたことがあり、その時の印象と変わらなかった。 安定した技巧といい、タッチの音作りといい申し分ないのだが、ケフェレックは持ち前のセンスの良さで面白く聴かせることができる奏者であり、それゆえにラヴェルの場合にいささか…

ピアノの練習

…を書きたいのだが、例の遅いテンポ練習の影響で、「昨日と同じ内容」をかなりの頻度で繰り返し書かねばならない。 代わりに、昨今聴いたCDの感想を充実させようかと考えている。

アニー・フィッシャーのベートーヴェン:ソナタ全集(Hungaroton)

アニー・フィッシャーのBBCに録音したベートーヴェンのソナタ集を購入して聴いたのだが、Hungarotonに残した全集とそれほど異なる印象を残さなかったので、考えた事をまとめて書いておきたい。 私のベートーヴェン経験の一番のターニングポイントは、グリー…

マガロフのショパン:幻想曲、ロンドop.5、スケルツォ3番、24の前奏曲(fone)

初めてこのCDを買ったとき、まだ中学生だった。 このCDが盤面の劣化(歪み?)をおこしていて、前奏曲の後半でノイズが入るようになって困っていたところ、ゴールドCDで売られているのを見つけて記念に買い直した。 当時、ショパンの音楽を聴くのが大好きだ…

フィリップ=コラールのラヴェル:ピアノ曲全集

ネットで試聴した限りではタッチが骨太でラヴェルにあっていない印象を受けたのだが、たまたま二束三文で叩き売られていたので入手して聴いてみたところ印象が大違いで驚いた。ネット試聴だけでは誤ることがあると大いに反省し、世評の高い録音は一度聴いて…

ショパンの弾き方

比較的ハイフィンガーっぽい教わり方をしてきた私のような人間が、ショパンのピアニズムに慣れるまで、どうも2段階あるようだ。 (1) 伸ばした指で、重心移動 良く言及されている、奏法の違い。 しかしこれだけでは不十分で、 (2) 指を鍵盤の上にくっつけで脱…

いたたまれない話

結構歳のいった生徒がピアノの先生のもとで、これまでの奏法を一切白紙に戻して0から学び直しているという話を聞いて、いたたまれない気持ちになった。 歳のいったピアノ奏者なら、音楽と人生の体験をその従来奏法とともに経ているはずで、それをある時「一…

強形式と弱形式

今日、職場で2階の変微分方程式の弱形式化の勉強(ようは有限要素法シミュレーションの勉強)をしていて、これが実に面白い。 強形式⇔弱形式の対比が、頻度主義⇔ベイズ主義と通底しており、ある種の双対関係を持っている気がしてならない。 最近足し算に興味…

翼のはえた指_評伝 安川加寿子(青柳いづみこ)

読み手によって得られるものが異なる伝記だと思う。 私にとって一番心に残ったのは、完成された技巧を持った安川さんが、その速すぎる晩年に、リウマチによって演奏が出来なくなってしまうという、辛い残酷な事態であった。 ほとんどのピアノ弾きは、人生の…

ピアニストガイド(吉澤ヴィルヘルム)

本棚の奥にしまってあったのを、久しぶりに取り出してきてパラパラと読む。この本の最大の問題点は、著者主観を前面に出した人選ではなくて百科事典的に(CDで聴ける)ピアニストを網羅しているスタイルにもかかわらず、かなり目立つ位置に「おすすめ度」と…

ムラヴィンスキーのドイツ物が分からず

宇野功芳さんの追憶つながり(?)でムラヴィンスキーがメロディアに残したドイツ物(ベートーヴェンの3,5番とシューベルトの未完成)を立て続けに聴いたのだが、彼のロシア物の録音と比して、凄さがいまいち分からず。同じような演奏スタイルならトスカニー…

基音と倍音

ロシア奏法を教えられているという先生のブログをたまたま発見し、大変勉強させて頂いた。 基音を聴かせるピアニストと倍音のそれとの違いを、私のしがない耳が捉えられているとしたら、いわゆる重戦車系(超絶技巧を録音した頃のベルマン、プロコフィエフの…

ソビエトの名ピアニスト(ゲンナジー・ツイピン)

原著が1982年のため若干古さを感じさせる部分があるのだが、素晴らしかった。 最も心に残ったのはリヒテルについて述べられた箇所で、曰く❝芸術家が理性と感情を統合する時、通常なら冷静で均衡のとれた思考と熱烈な感情が統合されるところを、リヒテルの場…

紀伊国屋にて

久しぶりに紀伊国屋書店による機会があり、音楽書のコーナーを見に行った。 先日亡くなった宇野功芳さんの追憶コーナーがあって、最近出版された本が何冊か並べられていた。 特に購入意欲をそそられる著作はなかったのだが(追憶で買うなら、もう少し古い著…

名ピアニストたちとの出会い(山崎孝)

実店舗の本屋に行く機会がほとんどなくて、このような本が出版されているのを今まで知らなかった。 まだ第1章を読み終えたばかりなのだが、この本で目下一番素晴らしいと思ったのは、バックハウスの項で、奏者がしばしば聴かせる19世紀風の「様式化された非…

息子のクレヨンの絵本を読みながら…

(1) 息子の持っている12色入りのクレヨンを”リアル_クレヨン_セット”と名前を付けたとする。 (2) 12色の中から、黄色、マゼンダ、シアンを抜いた9色を、”シュワルツ_クレヨン_セット”と名前をつけたらどうだろう? (3) ”シュワルツ_クレヨン_セット”の任意の…

ピティナの提供音源のページ

気になるピアノの先生が、どんな演奏をしているのだろうと思ってググってみると… https://www.piano.or.jp/enc/pianists いとも簡単に聴き比べられてしまう!恐ろしい時代だ…。

最近出会ったblog

ピアノ漂流記 超絶技巧への迷走(http://pf-world.cocolog-nifty.com/blog/)というblogを見つけ、1週間くらいかけて全部読んだ。 著者のしんさんが罹っている右手の病気が、まるで過去の私の事が書かれているようで、驚いてしまった。 「左手は弾けるのに、…