メメント・モリ、あるいはピアノにかんするエトセトラ

私が人生で出会ったもの・考えたこと

コロリオフのベートーヴェン:ソナタ30-32番

あまり期待せずに買ったのだが、大変な佳演だった。これまで私の中でコロリオフは(ちょうどフェルツマンと同じように)バッハ奏者のイメージが強かったのだが、このピアニストの重要な一面を取り落としていた事を思い知らされた。

このベートーヴェンの面白さは、一見ドイツ正統派の演奏様式を完全に踏まえているようで、実は(ソナタ形式による2項対立から発生するとされる)ベートーヴェンらしいドラマツルギーの発生を徹底して押さえているところで(ここらへんはフェルツマンの同演奏に相通じるものが有る)、その結果、弱音で歌われる旋律の浄化された哀しさが、ふわっと虚空に浮かびあがってくるところだ。

後期のベートーヴェンは、それまでのソナタ形式から、新たに変奏曲とフーガの形式によって音楽的発展の活路を見出した等という事を知識として学んでいたのだが、これほどそれを感じさせてくれる演奏は、これまでなかった。