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メメント・モリ、あるいはピアノにかんするエトセトラ

私が人生で出会ったもの・考えたこと

ゾルタン・コチシュの訃報

急な話を受けて、心底驚いた。64歳、あまりにも早すぎる死である。

個人的には、この世代で最もメカニックの安定度が高く(ただし、その分音色の魅力が少ない)、そしてその事を微塵も感じさせないほど知性的な音楽をする奏者という印象だった。

思い出深い録音が2つある。

ひとつ目はラフマニノフソナタ2番で、ここでコチシュは原典版を弾いており、並み居るロシア系のヴィルトゥオーゾと比較しても、なお余裕綽々と弾ききっていて、聴き返すたびに圧倒される(ただし、音色の豊かさという点で、私のもうひとつの愛聴盤であるアシュケナージの準原典版の録音が勝る)。

もうひとつは、奏者の遺した金字塔であるバルトーク全集に含まれるSz.72-1の練習曲で、この難解なエチュードを、(おそらく音楽的な要求によって)ほとんど多重録音でもしているのではないかと思うようなスピードで弾ききっていて、難しさのかけらも感じさせない。

バルトークと並行しフィリップスで進めていたドビュッシーのピアノ音楽全集が、おそらくレコード会社の資金難によって「練習曲」を残して頓挫してしまった事は、レコード史上の痛恨事のひとつだと思う。