メメント・モリ、あるいはピアノにかんするエトセトラ

私が人生で出会ったもの・考えたこと

E.フィッシャーのブラームス:op.21-1他(Music&Arts)

ブラームスのピアノ独奏曲でいちばん好きな作品は?と聞かれたら、現在の私はこのop.21-1の変奏曲と答える。後期ベートーヴェンの前に頭を下げて心から敬服している若きブラームス像が大好きなのだ(根っからのブラームスファンにとっては邪道かもしれない)。

今回この6枚組を入手したのもフィッシャーが同曲を弾いているのを聴きたいがためで、もし調子が悪い演奏だったらどうしようと心配していたのだが、実際は内容・録音とも彼の全録音の中でも屈指の出来栄えであった(録音年1949年、録音場所不明だが、この音質の良さは放送用音源か?)。これまで私が聴いた中でこの作品の最高の録音はグリンベルクの1971年のもので、むしろこの演奏によって作品の素晴らしさに目覚めさせられたのだが、このフィッシャー盤を聴いて、全く優劣つけがたく見事だと思った(しいて違いを述べるなら、グリンベルクの演奏は曲を完全に消化して内的な体験として弾いていて、フィッシャーの方は書法に対する誠実さを感じる)。

他の収録曲の感想をいくつか。

ベートーヴェンのop.77は同レーベルの"Edwin Fischer plays Beethoven Piano Sonatas"に含まれるものと同一演奏(ただしリマスターが異なる)。

ブラームスの協奏曲2番は、(これを言ってはお終いだが)フルトヴェングラーBPOのと比べるとオケが弱く、フィッシャーのピアノが入った時の陽光がさす様な趣が十分に対比されない。

バッハのBWV.1053の2楽章(シシリアーノ)は彼のスタジオ録音と甲乙つけがたいほと優れている。

同じバッハでBWV.1044が収録されていて、これはBWV.894のオケ版で、この組み合わせで聴けるのはバッハ好きとして嬉しい(リヒターにスタジオ録音がある)。

CD4に1948年のブラームスソナタ3番が入っており、録音・演奏ともに調子が悪い。

CD5で表記が抜け落ちているのだが、フィッシャーによる音楽の捧げものBWV.1079より6声のリチェルカーレのオケ編曲の後に、ブランデンブルク5番が入っている。

CD6。BWV.1056協奏曲には、これまたグリンベルクの唯一無二の録音があって、さすがのフィッシャーのスタジオ録音も後塵を拝すの感があった。だがここに収められた2,3楽章は、内的充実度でスタジオ録音を完全に上回っていて、1楽章がないのが残念でたまらない。