メメント・モリ、あるいはピアノにかんするエトセトラ

私が人生で出会ったもの・考えたこと

ハイドシェックのバッハ:平均律第2集より(Polymnie)

平均律第2集5番の譜読みを始めようとしたまさに直前に、トラック1にこの曲が収録された本盤が届くとは、何という巡り合わせだろう!

Amazon.frでひっそりと売られていたこのCDは、ハイドシェックの最新録音で、平均律第2集から12曲が自由な順番で配置されている。

全文がフランス語のみで、部分的に日本語訳が併記されたライナーノートによると、ハイドシェックは2012年頃に命がけの大手術をしたらしく(例の心臓病だろうか?)、ピアニストとして再起できたあかつきにはバッハを録音したいと願い、それが結実したのがこのCDであるようだ。

録音にあたってハイドシェックは万全を期すために、限られた日にちでしか予約できない録音スタジオを拒否し、プロデューサーが保有していた状態の良いCFⅢSを借りて、プロデューサーの家で時間をかけて録音した模様。

従って、このCDの唯一最大の短所は音が悪いことで、奏者のこれまでの録音で言うと一番悪い部類の「テンペスト」と同等か、それ以下である(曲によってばらつきがある)。

それと引きかえに、さすがにハイドシェックのコンディションは大病を挟んだと思えないほどで、まもなく80歳になろうとは信じがたいほどの運指の冴えによる音楽の運びが健在であり、加えてテイチクに録音していた頃にしばしば見せたやり過ぎ・弾きすぎが一切なく、全く自然にバッハの音楽が流れていく(年をとって良いことの一つは、極端ややり過ぎをしなくなると言っていたのは、誰の言葉だっただろうか)。

しかし、それだからこそ、この録音状態が惜しい!どこかのお金持ちの篤志家が現れて、長期間スタジオ貸しきりで続編を作ってくれないものだろうか…。