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メメント・モリ、あるいはピアノにかんするエトセトラ

私が人生で出会ったもの・考えたこと

デル・プエヨのベートーヴェン:ソナタ全集(PAVANE)

Amazon.frで売られていたのを見つけた時、購入するかどうか正直迷ったのだが、このタイミングで買わないと入手できなくなる気がして、半ば衝動買いしてしまった。

既に2枚組の選集を聴いていたのだが、この全集を耳にして、この演奏の優れているところを改めて認識することができた。

良いと思うところは、まずベートーヴェン専用に準備されたかのようなタッチが素晴らしい。深くない打鍵による澄んだ音を基調としながらも、所々突き刺す様なスフォルツァートを聴かせるという演奏スタイルは、リチャード・グードのそれを完全に予言している。

そして、こういう奏法をとっているためメカニックの安定度が(1905年生まれの奏者であることを考えれば)非常に高い。

また、楽譜の読みが独特ながら深い。例えばop.109の2楽章は確かにprestissimoに感じるように弾かれているし、あるいはワルトシュタイン1楽章第2主題は右手のテーマが左手に受け渡されるのがはっきり聴こえる事を主眼に弾いていたりと、解釈に唸らされる箇所が結構ある。

一方私が賛同できない箇所は、以前も述べたがドイツ色が希薄な事で、例えば左手の伴奏にのって右手を歌わせるような箇所で、和声進行による陰影のようなものが乏しく一本調子になる事がある(しかし、フレーズの終わりで見事にdimしたりする)。

また、モーツァルトの「右手が何をしているか左手は知らない」という言葉を彷彿とさせるような、右手を歌いこんだ結果左手とずれるような楽句の処理が手癖のように現れるのだが、それほど音楽的に感じられずに崩れて聴こえる。

さらに、ラモンドやシュナーベルよろしく特定の楽句でテンポを変えるやり方が、私にはどうしても馴染めなかった。

結論として、ただ古い奏者の入手しがたい録音だからという理由だけでこの全集をコレクション棚に置いておくほど私はコレクターとして死んでいないが、以前から持っている2枚組の選集を、(こちらは見事な出来だと思っている)グラナドス集の脇にリファレンスとして置いておく価値は十分にあると思った。