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メメント・モリ、あるいはピアノにかんするエトセトラ

私が人生で出会ったもの・考えたこと

音楽の手帖~ピアノとピアニスト(青土社)

"もうひとつのピアノ"の領家さんがblogで取り上げられていたこの本を読んでみた。1980年の初版なので大昔に書かれたものなのだが、一読して感じるのは、この時代は音楽評論が生きていたという事である。本書では音楽評論家と呼ばれる方々がピアニストをまな板に載せて、しばしば奏者本人には思いもつかないような切り口で持論を展開していて、その内容がどの程度に妥当であるかとは別に、豊かさのようなものが確かに存在している。

目下、いちばん面白かったのは遠山一行さんの評で、ブレンデルを(独墺系の伝統的な演奏スタイルを古典とするなら)擬古典主義でピアノ界最高のマニエリストと言い切っているところである。そして遠山さんは"マニエリスム"を次のような意味で使っている「伝統的な演奏スタイルが奏者の自然な表現行為として発露されていた時代の後になって、彼ら後発の奏者は音楽学校で客観的な知識を学び、レコードを聴きくらべ、そして彼らと同じくらい過剰に情報を持つ聴衆の前で自分の演奏を主張しなければならない。演奏は知的な意識による分析と解釈の積み重ねになり、演奏本来の自発性と創造性は失われるが、それでも才能のある音楽家は自分の演奏に固有の意味を与えることに成功するだろう」(やや自由に意訳)。

ブレンデルの演奏を聴いていて、グルダの言うところの「博物館の案内人」的な状況を僅かでも感じるとすれば、この遠山さんの言葉は、その原因を見事に言い当てている。