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メメント・モリ、あるいはピアノにかんするエトセトラ

私が人生で出会ったもの・考えたこと

クラウスのモーツァルト:ソナタ全集旧録音(Music&Arts)

私が初めてクラウスの旧全集を買って聴いたのは、新星堂の復刻盤であった。

著名な録音技術者シャルランによるこの録音は、クラウスの調子が大変良いのが裏目に出て、その昨今の合理的奏法から逸脱した弾き方に起因すると思われるアタックノイズ(sfのような箇所で伴う雑音)をマイクが壮大に拾ってしまっていて正直聴くに堪えず、CBSへの淡泊さを増した新録音の方が、雑音も少なくて余程良い演奏に感じていた。

ところが、どうも新星堂のは音質が悪く、クラウスの旧盤を聴くなら当M&Aの復刻が優れているという情報を得て、思い切って買い直してみた(私がリマスターを理由に買い直すことはほとんど無いのだが、この盤は特別であった)。

届いた盤を新星堂のものと聴き比べてみたのだが、M&Aのリマスターは噂にたがわぬ見事なもので、耳障りであったアタックノイズが気にならないレベルまで低減されている(その代わり高音部のツヤが少々犠牲になっている)。

このM&A盤の登場によって、クラウスの旧全集は新全集と甲乙つけがたく良いと思うようになった。

そして今度も痛感したのは、我々が録音を聴いて「クラウス」だと思っているのは、ピアニスト本人の他、ピアノ、調律師、ホール、録音技師、リマスター技師、そして再生環境の掛け算になっているという、紛れもない事実である。

私は、ピアノを弾く趣味が無かったら、間違いなくオーディオマニアかリマスター盤オタクになっていたと思った。