メメント・モリ、あるいはピアノにかんするエトセトラ

私が人生で出会ったもの・考えたこと

グティエレスのショパン:24の前奏曲集他(Bridge)

グティエレスの名前は以前から聞いた事があったのだが、録音が大変に少ないうえにソロで弾いたものは皆無に等しい状態で、このBridgeへの2015年の録音で初めて聴いた。

一聴した感じでは、非常に特殊なありかたをするピアニストとの印象を受けた。

まずメカニックの完成度が非常に高いのだが、では技巧派の、指回りの魅力によって音楽をつくる奏者かと言えばちょっと違う。その冴えわたる技巧は、おそらく浅めの打鍵による現代的な奏法に起因すると思われ、実際に美しい音の持ち主なのだが、では最近の若手奏者のように美しい弱音の響きを前面に出して音楽を造形するタイプでもなく、どちらかと言えばペダルを控えめに使用しているためタッチの粒立ちが際立って良いのだが、ではタッチの粒立ちが魅力のピアニストかと言われれば、それも一面にしか過ぎない…。

このような感じで、複数のピアニズムの類型を連想させたうえで、最終的にそれらのことごとくに抹消線が引かれるかたちで、1940年代生まれの奏者にとって時代のトレンドである”楽譜に書かれていることに忠実な演奏スタイル”が達成されている。

それはあたかも、作品をいかようにでも料理できる才能あるピアニストが、当時の原典至上主義様式の中に自己を押し込めようとした結果、遠目には見事に型にはまって見える感じであり、まるで歴史の教科書に出て来た"ぱっと見は仏像だけれど良く見るとマリア像"のようだ。

私には、ミケランジェリ演奏家としての在り方と根底において相通じるものが有るようにも感じられ、群を抜いてマニエリスティックなピアニストだと思った。