メメント・モリ、あるいはピアノにかんするエトセトラ

私が人生で出会ったもの・考えたこと

ギーゼキングのバッハ:放送用録音集成(DG)

来日時の演奏で井口基成さんに打鍵の浅さを批判されたギーゼキングこそ、鍵盤の底まで打鍵しない奏法の大家であったと思う(ただし、少なくともソノリティ・コントロールへの嗜好が無い点で、最近の現代奏法で弾いている若手奏者と異なる)。

私見では、この奏法で得られるタッチの美しさを前面に出す芸風の歴史的ピアニストは録音状態の影響をもろに受けるため、可能な限り良い録音で聴きたい。

ことギーゼキングの独奏曲の録音に関する限り、EMIにステレオで入れた数曲のベートーヴェンがベストであり、モノラル録音で一番良く録られていると感じたのはDGのバッハ:パルティータ集であった。

だから本家本元のDGより最新リマスターで一連のバッハが復刻されると知って、思わず衝動買いしてしまったのが、このセットである。

だが、実際に聴いてみると、良くない。

リマスター時に音の広がり感を増幅させたような仕上がりになっているのだが、おそらく復刻元の音源の状態は既出の復刻盤で使用したものと大して変わらないと思われ、一昔前の復刻レーベルの手を入れ過ぎた復刻盤のような音になってしまっている。

今回の復刻盤の音質が向上しているとは感じない。

これはパルティータ、平均律のみならず、M&A社が復刻したインベンション・シンフォニアを比較試聴してもだ。したがって、どちらが好きかは完全に聴き手の好みの問題で、私は既出盤の音質の方に魅力を感じる。

なお、M&A社盤には、ほかに数曲のイギリス組曲フランス組曲が含まれている。これらの録音はDGが版権を買い取らなかったのかな??