メメント・モリ、あるいはピアノにかんするエトセトラ

私が人生で出会ったもの・考えたこと

フジ子ヘミングさんのリスト:ラ・カンパネラ他(Victor)

実はこの話題のピアニストを今まで聴いた事が無く、図書館にCDが置いてあったので初めて聴いた。

印象としては、この録音に関していえば、巷で叩かれているよりも、ずっと上手い。

一聴してまず感じるのは、これは色々なところで言及されている事だが、タッチが美しい。基音の打鍵は浅いが状況に応じて深くまで弾き込むような打鍵で、私にはルービンシュタインやボレットに似ているように聴こえる(ひょっとすると、長年師事していたというクロイツァーをステレオ録音で聴く事ができたなら、そっくりなのではないか!?)。

もっとも、これまた色々なところで言及されているメカニックの危うさが散見されるのもまた事実で、これが実演でどれくらいまで崩れるのかは、想像するしかない。

演奏を聴きながら、私は、ふと幾つかの事を思い出した。サン=テグジュペリの「大聖堂は石材の総和とはまさに別のものだ」という言葉。あるいは、昔ウゴルスキ旧ソ連最後の"発見された"ピアニストとして華々しく世に出た時、あの程度に弾ける人ならソ連には山のように居るという意見があった事を。

思うに、大聖堂を構成する石材(技巧や、音色もだ)を疎かにする事はできないが、大聖堂の価値を石材の質のみによって判断するのも慎まなければならない。

この演奏は、土台の部分には危うさが有るかもしれないが、建物としては、70歳になろうという音楽家が示した、ひとつの境地のようなものが刻印されていると思う。