メメント・モリ、あるいはピアノにかんするエトセトラ

私が人生で出会ったもの・考えたこと

ショパンの練習曲op.10-1をめぐる人生の3つの断片(3)

右手の指の不調が治ってきて、ピアノを楽に弾く奏法の知見を深めた私は、ようやくこの作品を、以前よりもましに弾けるようになった。

そこで私は、現在の自分が、この立ちはだかる壁をどれくらい登ったか、過去の演奏がどれくらいひどかったかを、この機会に纏めておこうと思った。


PCの奥底に眠っていたいちばん古い録音は、30歳代前半の時の演奏だった。
それは日々の練習をUSBマイクで録っておいたもので、その中に、最後まで止まらずに弾いているテイクが有った。

 

この演奏を聴いた私は即座に、自分の考えの誤りに気付いた。


当時の私の右手の状態は、就職とともに再発した指の独立不具合が徐々に回復してはいたのだが、今よりずっと遅いテンポで、大量のミスタッチをしながら弾いていた。
しかしそこには、下手くその一言で切り捨てられない何かが有った。
現在の自分が失ってしまった、何かが…。

 

私は、私のショパンを録りなおした。


四分音符=120
ショパンが楽譜に指示した速度と比べて著しく遅いンポ。

今風に言えば、誤った解釈。

しかし私は人生の多くの時間を、このテンポで演奏した時に立ち上がってくる音楽と共に過ごしてきた。私は、人生の一部として、この音楽を背負っている。

youtu.be

P.S.

この演奏のみアップロードしようかと(前のふたつの演奏は不要ではないかと)、結構悩んだ。