メメント・モリ、あるいはピアノにかんするエトセトラ

あるピアノ愛好家が人生で出会ったもの・考えたこと

吉田秀和さんの『フルトヴェングラー』(1)

心が和んだエピソード。

最初の章に出てくる話で、作曲家の別宮貞雄さんと一緒にフルトヴェングラーの振る『運命』を聴きに行った吉田さんは、会場で作家の大岡昇平さんとばったり会う。

演奏後に3人で食事をとりながら音楽の事をしゃべるのだが、吉田さんと別宮さんが、ヨーロッパ音楽史上最も良くできた曲と考えている『運命』に対して、大岡さんはいつ聴いても退屈な曲だという自説を展開する。
それを聞いた吉田さんは、決裂するどころか大岡さんの「世間がどう言おうが自分はこう思う」という首尾一貫した態度に、大きな敬意を払う。

このような寛容さというか、対立する意見をも包み込むような視座を、最近の私たちはどこかへ置き忘れてしまっているような気がする…。